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食卓の死角：ギョーザ事件１カ月／下　価格競争で国産原料衰退　◇「特需」に産地応えられず　　皮をむいたばかりの球根が雪のように白く光る。「一度作る量を減らした。また増やせと言われてもねえ」。青森県七戸町の農家、花松正隆さん（７０）は作業場でニンニクの山に目をやった。　　青森県は国内産の７割を占めるニンニク産地だ。秋に種をまき、翌年春から初夏にかけて収穫する。冬は豪雪の下で養分を蓄える。花松さんの住む旧天間林（てんまばやし）村（０５年３月七戸町に合併）は、７０年代からの減反政策でニンニクへの転作が広がり、全国トップの生産量を誇ったこともある。　　９０年代、安い中国産が大量に流通し始め、売れ行きが激減した。村で３２０ヘクタールあった作付面積は現在１４０ヘクタール。花松さんも１・５ヘクタールの畑を半分にした。地区に２０戸あった栽培農家は８戸に減った。　　中国製冷凍ギョーザ中毒事件が発覚し、全国からニンニクの注文が押し寄せた。花松さんの出荷する農協にも、大手小売りや加工業者、外食産業から問い合わせの電話が相次いだ。生産規模の縮小に次ぐ縮小で、特需に応える在庫はない。職員は注文の大半を断るしかなかった。　　農協系農産物販売会社の男性社員（５０）は２月上旬、外食大手の「すかいらーく」の意向を受けた商社の担当者と交渉に臨んだ。事件後、すかいらーくは中国産食材の一部を国産に切り替える方針を打ち出していた。「短期契約で安く大量に買いたい」というすかいらーく側の意向に、男性は「設備や人手のコストを考えれば、せめて１年以上の契約で」と応じた。条件が合わず、破談となった。　　男性社員は「いつも中国産に翻弄（ほんろう）される」とぼやく。すかいらーく側は、それでも国産ニンニクをかき集め、６月分まで確保した。しかし、広報担当者は「その先は流動的だ」と言い、長期的なめどはたたない。　　異変は、同じくギョーザの原材料であるニラでも起きていた。　　国産ニラも中国の安い冷凍ものに押されてきたが、事件発覚後の需要増で価格が高騰した。有数の産地のひとつ、栃木県鹿沼市の上都賀（かみつが）農協では、中毒事件の発覚直前の１月末に１ケース（４キロ）で２５００円だったが、２月７日には６０００円の値をつけた。　　安さを求める消費者や外食産業のニーズで、中国産の農産物がどんどん入ってくる。それにより産地は衰え、食料自給率も落ち続ける。いざ安全・安心を求めて国産品を探しても、それに十分に応えられる力が産地にはもはやない。＝この連載は駒木智一（千葉支局）、秋本裕子（経済部）、宮川裕章、桐野耕一、奥山智己、井上英介（以上、東京社会部）が担当しました。　毎日新聞　2008年3月2日　東京朝刊